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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)1180号 判決 1963年2月27日

住宅金融公庫

理由

被控訴人が本件建物の所有名義人であること、右建物につき控訴会社を債権者、被控訴人及び訴外木村幸一郎、同平松俊秋を連帯債務者として、債権極度額金六〇万円、契約期間昭和三一年二月一日より同年七月末日までとする旨の、同年二月三日付商取引債務根抵当権設定契約にもとづき、同年二月四日神戸地方法務局兵庫出張所受付第一、六五六号をもつて根抵当権設定登記がなされていることは当事者間に争がない。

そこで、被控訴人が控訴人との間に右の連帯債務を負う旨の契約を締結したか否かにつき検討するに、(証拠)を総合すると、

(一)  被控訴人は、昭和二七、八年頃住宅を建築すべく住宅金融公庫より融資を受けることになり、右融資ならびに建築手続を建築業者に一任したが、当時宅地の関係で早急に建築する見込がたたなかつたため、その建築を一時見合わせていたところ、被控訴人不知の間に右建築業者が平松俊秋に対し右公庫から融資を受けることのできる権利を譲渡した。そこで、右平松は被控訴人名義をもつて公庫から融資を受けたうえ、自己の負担において本件家屋を同人所有地上に建築し、公庫との関係上右家屋に被控訴人名義で所有権保存登記をなすとともに、公庫に対する貸金債務を担保するため抵当権設定登記をなし、爾来被控訴人名義をもつて公庫に対し右借受金の償還を継続中であること、従つて、本件家屋については、右登記名義にかかわらず、被控訴人はなんらの権利を有するものではなく、右家屋は平松の所有に属するものである。

(二)  右平松は昭和三一年一月頃電気器具販売を営む訴外木村幸一郎より金三〇万円を借受けるべく、その担保として同人所有の本件家屋ならびに前記土地に抵当権を設定することを約し、同年二月三日その妻平松操を介し、右登記手続に要する被控訴人名義の印鑑証明書、委任状(これら書類の作成経過は後に認定する)を田井司法書士事務所において右木村に交付した。しかるに、木村は当時控訴会社より取引上の債務の担保として、担保物件の提供を求められていたため、これを奇貨として、被控訴人はもとより右平松不知の間に、ほしいままに、前記被控訴人名義の印鑑証明書、委任状等を利用して、控訴会社との間に自己ならびに被控訴人および右平松俊秋を連帯債務者とする商取引債務根抵当権設定契約を締結し、これにもとづき被控訴人名義の本件根抵当権設定登記手続をなすにいたつた。

(省略)

してみれば、被控訴人は控訴会社との間に被控訴人を連帯債務者とする本件根抵当権設定契約を締結したことのないことは明らかであるから、控訴会社に対し、右契約に基く前記金六〇万円の債権の不存在の確認を求める請求は理由があり、これを認容した原判決は正当である。

次に、被控訴人の本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める請求につき考えてみるに、前記認定のとおり、被控訴人は本件建物につき当初来なんらの権利を取得した事実がなく、その所有者は平松俊秋であつて、同人が被控訴人名義で住宅金融公庫から融資を受けるため、右公庫に対する関係上右家屋につき被控訴人名義を利用しているものに過ぎず右名義利用関係については被控訴人の全く関知しないところである。

およそ、登記請求権は、実体上の権利関係と登記とに不一致がある場合、両者を一致させることによつて、実体上の権利者を保護するためにあるものであるから、実体上なんらこの物権を所得したことなき者は、たとえ、登記簿上所有名義人となつていても、右所有名義人において、第三者に対し一定の登記を請求することが、とくに実体上の権利者のために別個の登記義務を負担する関係上必要とせられる場合は格別、しからざる限り、かかる所有名義人は第三者に対する登記請求権を有しないものと解するのが相当である。いま、本件についてみるに、被控訴人は本件建物につきなんらの権利を取得した事実なく、また、その実体上の権利者たる訴外平松俊秋に対して他の登記義務を負担する関係にはないのであるから、控訴会社に対し本件登記抹消請求権を有しないというべきである。してみれば、被控訴人の右登記抹消請求は失当であつて棄却すべきものであるから、これを認容した原判決は取消を免れない。

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